探偵 父をたずねて 14

平成5年の正月を、兄の住むロスアンゼルスで過ごしたわたしは、少し遅れて初出社した。バブル崩壊に伴い、上昇を続けていた景気はあっという間に失速し、不景気の波が押し寄せ、わが探偵事務所も調査員の削減を迫られていた。湯水のごとく調査費を使ってくれた顧問先は、信じられないほどの早さで軒並み倒産した。「仕入れがなくていいね」と言われた調査会社ですら、年賀状が戻ってくるありさまで、いささか暢気なわたしも瀬戸際を感じていた頃だった。

事務の女性が、年賀状の束を持って部屋に入ってきた。一息入れたところで、一枚一枚読んでいたら、差出人が佐藤直子という名前の葉書がある。誰だろうと思って読むと、数年前、実の父親を捜してくれと言って事務所に来たあの依頼人だった。そうか、結婚するって言ってたなと思い、本文に目を通す。佐藤直子こと早川直子は、こう書いていた。

「四年前、父の調査をお願いしました早川です。その節はお世話になりました。わたしはあのあと結婚し、佐藤になりました。子どももできて幸せに生活しております。父のことはショックでしたが、所長さんに言われた言葉を思い出し、何事もプラス思考で考えるようにしています。それから、所長さんには怒られるかもしれませんが、父に会いました。夫と二歳になる娘を連れて、行ってきました。父はたいそう驚き、そのあと泣かれましたが、わたしのほうは、なんとなく妙な覚悟ができました。ほんとうにありがとうございました」

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