探偵 布団 8
妻が不在の数か月間、どこかで自分の知らない男と交わっているだろう妻を想像し、眠れぬ夜が続いたはずである。それでも依頼人は必死に努力した。妻のほうも、こうした夫の状態が自分のせいだと思うから、不本意に終わりうなだれる夫を責めることもできず、何も言わずに耐えたはずである。あれから二十余年経った。依頼人やマルヒはどうしただろうか。背が高く、ハンサムな彼は再婚しただろうか。いや風貌に似合わず、慎重で堅物だったから、まだたぶんひとりでいるに違いない。一方、マルヒ、遼子はどうか。あの年齢で刺激に満ちた稀有な経験をして、その後おとなしくしていられるだろうか。夫というたがが外れた分、女として生きてはいるだろうが、決して幸せになっているとは思えない。いまでは、あの坊やもすっかり大人になり、結婚して子どももいるだろう。そして、ときどきはほろ苦く思い出すのだろうか。あの布団の温もりを。