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  • 探偵 バブル 5

    2023.09.20

    部屋に入りきれず、わたしと二人の社員は廊下で待機した。相談がまとまらないうちに巡査も到着して、とりあえず交番に連れてきてくれということになった。さすがに、ホテルの支配人はホッとしている。聞けば宿泊料金は前金で預かっており…

  • 探偵 バブル 4

    2023.09.12

    それから数日経った。「所長、鎌倉の阿部さんという女性からよ」助手の恵美子が受話器をわたしに渡そうとする。心当たりのないわたしは、しばらく、誰だろうと考えた。「早く、早く!所長の名前を言っているんだから」恵美子がせかすので…

  • 探偵 バブル 3

    2023.08.29

    坂口本部長は苦りきっている。 「人も住めないようなボロ屋が、どうして四千万円もするんですか」わたしがたずねると、坂口本部長はニヤリと笑って、「四億になるんだよ」と言う。わたしがポカンとしていると、「建物なんか関係ないのさ…

  • 探偵 バブル 2

    2023.08.22

    坂口と名乗る男は、わたしが部屋に入るとき、周囲に聞かせるような大声で「どう、元気?」と言う。わたしはなにがなんだかわからなくなったが、声にならない返事をしてその場をしのいだ。すのすこぶる調子のよい坂口氏は、大東和興産の本…

  • 探偵 バブル 1

    2023.07.19

    「うるせえ、馬鹿野郎!」「なんだとおぅ?おまえ、何をいってるんだあ!」 エレベーターを降りると、いきなり怒声が聞こえてきた。新宿駅西口の高層ビル街の一角にある指定されたビルを訪問し、社名のロゴマークが入った受付まで来たが…

  • 探偵 キャバレー 1

    2023.07.12

    -月曜日の人。 わたしたちはその依頼人をそう呼んでいた。ゴルフが趣味なのか、日に焼けて黒光りする顔色のデップリと肥えたその人が、最初にわたしの事務所を訪れたのが、梅雨が明けて間もない七月最後の月曜日だった。事前の連絡もな…

  • 探偵 夜店 7

    2023.07.04

    こちらは、周囲に漏れる懸念はありません。ただ、妻に知られ、その妻が、拳を上げて戦いを挑んできたと、ご主人はそう思うでしょう。そんなとき、ご主人はどうするでしょうか。ご主人の性格や、思考方法などについては奥さんが判断してみ…

  • 探偵 夜店 6

    2023.06.27

    本件調査のマルヒの場合、配偶者である依頼人に与えた損害は計り知れない。したがって、払う犠牲も大きいものとなる。不倫相手の律子も同様でマルヒと共に、妻紀子さんに対して犯した「共同不法行為者」としての責めを負わなければならな…

  • 探偵 夜店 5

    2023.06.20

    数時間後、依頼人から連絡が来た。ずいぶん早いな、と思ったが、依頼人も不安に思ったのだろう、わたしからの電話を切って、すぐに市役所におもむき、バスの中で謄本を念入りに読んで、自宅に帰ってわたしに電話をくれたらしい。「手元に…

  • 探偵 夜店 4

    2023.06.13

    自宅とはまったく方向が違う。再び緊張感が我々を包む。午後七時十三分、京浜東北線の大船行き普通電車にマルヒが乗車する。今度は帰宅ラッシュのため車内はたいそう混雑しており、本を読むわけにもいかないマルヒは、つり革を握ってぼん…

  • 探偵 夜店 3

    2023.06.06

    例えば、夫の財布にホテルの領収書が入っていたとか、背中に爪で引っかかれた痕がついていたなどと、まことしやかに疑惑の原因を並べ立てては、いかに自分の判断が正しいかを強調する。しかし、何日調査しても、マルヒにはあやしいそぶり…

  • 探偵 夜店 2

    2023.05.30

    眠れぬままあれこれ思いをめぐらせたが、確たる判断材料のない状況で思考はまとまらず、気がつくと朝になっていた。その後、友人から何度か電話があり、その都度紀子なりにアドバイスをしたが、紀子自身もあの日以来、なんとなくスッキリ…

  • 探偵 夜店 1

    2023.05.23

    夏休みも終わりに近い、八月下旬のある日。自宅近くの神社で祭りが行われ、広い境内に、色とりどりの夜店やタコ焼きなどを売る屋台が出て、たいそうにぎわっていた。芦田夫婦は、久しぶりに郷里から上京してきた妻の母親を誘い、夕涼みが…

  • 探偵 布団 8

    2023.05.02

    妻が不在の数か月間、どこかで自分の知らない男と交わっているだろう妻を想像し、眠れぬ夜が続いたはずである。それでも依頼人は必死に努力した。妻のほうも、こうした夫の状態が自分のせいだと思うから、不本意に終わりうなだれる夫を責…

  • 探偵 布団 7

    2023.04.25

    なんなんだ、と思いながらも、彼が泣きやむのを待った。青年を伴い、その日のうちに東京に着いた。新大阪に向かう途中、依頼人に連絡すると、「わたしたちも一緒に帰りたい」ということになり、予定を変更して同じ列車にした。座席指定が…

  • 探偵 布団 6

    2023.04.18

    依頼人が二階の少年課に上がったあと、わたしも少し間を置いてからあとを追った。広い部屋の真ん中あたりで、刑事と話をしているマルヒの姿が見えた。以来にっも妻を見つけ、机と机の間を縫うように妻の座っている方向に向かっている。わ…

  • 探偵 布団 5

    2023.04.11

    後日、依頼人がしみじみとわたしに言ったことだが、依頼人の両親は彼がまだ小学生のときに離婚したのだという。ご多分に漏れず、父親の浮気が原因だった。夫に捨てられた母親は、幼い依頼人と妹を連れて、福島県会津地方の小さな町にある…

  • 探偵 布団 4

    2023.04.04

    わたしは単身マルヒの勤務先を所轄する警察署に行った。東京の探偵社の者であると身分を明かして、捜索を依頼された家出人を発見したことを説明し、マルヒを東京に連れ戻すための協力を要請した。対応した少年係の刑事は、東京の野方署に…

  • 探偵 布団 3

    2023.03.29

    そういう準備をして、あとは妻が定期預金を解約しに来るのを待つだけという矢先の東日本信託銀行からの通報である。予定どおり十三分で中野駅北口に着いた。一般客を装って店に入り窓口業務を行う一階ロビーを見ると、隅のほうの椅子にポ…

  • 探偵 布団 2

    2023.03.22

    依頼人が泊りの日の夜。胸騒ぎがして家に電話してみると、子供が出て、「お母さんはお仕事でいない」と言う。わが子にはそれ以上聞けず、悶々としてひと晩を過ごした。翌日帰宅してから妻に問いただすと、「会社を辞める人がいて、送別会…

  • 探偵 布団 1

    2023.03.14

    「こちらは、東日本信託銀行中野支店です」 電話の主は何げない調子を装い、そう告げただけで沈黙した。待ちに待った知らせである。 「どのくらい引っ張れますか」 気がせくのを抑えながらわたしが聞くと、 「いまいらしたばかりです…

  • 探偵 父をたずねて 14

    2023.03.07

    平成5年の正月を、兄の住むロスアンゼルスで過ごしたわたしは、少し遅れて初出社した。バブル崩壊に伴い、上昇を続けていた景気はあっという間に失速し、不景気の波が押し寄せ、わが探偵事務所も調査員の削減を迫られていた。湯水のごと…

  • 探偵 父をたずねて 13

    2023.02.28

    京都や大阪における調査を終えて東京に戻った三日後、依頼人に事務所に来てもらい報告した。この日の早川直子は、薄いピンクのツーピース姿だった。挙式前の慌ただしさの中にも、浮き立つような幸せがにじみ、最初に会った頃よりいくぶん…

  • 探偵 父をたずねて 12

    2023.02.24

    大阪市東淀川区塚本町六丁目×番地、寿アパート三号室。JR塚本駅から徒歩で二、三分のところ、小さな商店街が切れるあたりを左に曲がった住宅街の片隅に、そのアパートはある。大阪では文化住宅というそうだが、木造二階建てに全部で十…

  • 探偵 父をたずねて 11

    2023.02.17

    近隣での聞き込みの結果、佐和子の夫つまりマルヒは、結婚当初こそ真面目に働いていたらしく、自転車で御用聞きに走り回る姿を見かけたが、もう十年以上水田家に近寄っていないという。ある日のこと、配達の途中でダンプカーと接触する事…

  • 探偵 父をたずねて 10

    2023.02.14

    父も母も、朝鮮で生まれ首都京城で育った。かの国が日本の植民地時代の、短い間の出来事である。二人とも特別ハングルを習ったわけでもないだろうが、一番いい時代のノスタルジアを、父なりの方法で、「カムサハムニダ」のひと言に託した…

  • 探偵 父をたずねて 9

    2023.02.07

    中肉中背、兄にも祖父にも似ていない。ましてや、わたしとは似ても似つかぬ風貌の、少しくたびれた印象の漂う中年男。来ている背広もお世辞にも上等とはいえない安物である。探し物をしているのだからしかたないのかもしれないが、歩行に…

  • 探偵 父をたずねて 8

    2023.02.06

    「宮本二郎さんをお願いします」 理由を聞くこともなく、受付の女性は、 「いまステージだから少しお待ちください。なんだったら、中に入って待つ?」 と店内に案内してくれた。舞台では、数人の男たちが演奏中だった。その中に、真っ…

  • 探偵 父をたずねて 7

    2023.02.03

    もうひとり、母の姉に真佐子という人がいて、芝居の一座を持っていた。のちに、娘浄瑠璃の踊り手として山口県の無形文化財に指定されるのだが、伯母のきぬ子やわたしは、ときどきこの一座の座員として地方巡業に同行した。もちろん、きぬ…

  • 探偵 父をたずねて 6

    2023.01.31

    探偵になって、四十数年経つが、わたしは、張り込み尾行のような「動」の調査より、資料を集めて分析したり、聞き込みを主体とする内偵調査のような「静」の調査が性に合っているらしく、どちらかといえば、時刻表や地図を調べ、こつこつ…

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